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2011年05月14日

●サクラ大戦っぽいナニか1

キャスティングをポロポロ変更。
支配人のお館様発言は、ちょっとした伏線のつもりなんだけど、なんか楽しかった。

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「ここは……」
 路面列車のタラップを降り大神は呟いた。
 花火に連れられて着いた場所は銀座だった。蒸気路面列車に蒸気四輪が四台も並べる幅を持った大通りの左右に、こじゃれた洋風建築の建物が並んでいた。
 丸に越の印の真新しい建物も見えた。どうやらあれが最近銀座にも出来たという百貨店らしい。
 様々な商店が並び、最先端の流行を纏ったモボやモガと呼ばれる人間が歩く都会に、どうも大神は気後れしてしまう。
「大神さん、こちらです」
 花火は大神を促しながら、少し遠慮しながらも先導する。
 石畳の街並みを歩いていくと、やがて大きな何かが視界に入ってくる。
 ルネサンス建築の巨大な建物。良く見ればそれが劇場だと分かるだろう。建物の正面には大きな看板が道路に沿って作られ、演目の内容だろう絵が描かれてた。
「演劇か」
 大神とて劇の一つや二つ見たことはあったが、これほど立派な劇場では見たことは無い。
 どうやらまだ劇場は開いてないようだ。だが、花火はそれも気にせず正面玄関の扉を開けていた。
 そして大神を振り向き、ニコリと笑う。開いたドアの向こうには赤絨毯にシャンデリア、荘厳な雰囲気の室内が見えた。
「ようこそ、大神さん。大帝国劇場へ」




 サクラ大戦っぽいナニか(仮) 第一話




「あの、北大路君。自分は別に演劇を見に来たわけでは」
「はい、その事も含めて支配人がお話になると思います」
 大神の疑問が分かってた様に花火は返す。
 劇場の正面玄関は大きかった。そこを大神は花火に促されるまま進んだ。
 突き当たりの正面ロビーまで来ると、思わず大神は溜息を漏らす。
「おぉ……」
 建物四・五階分に相当するだろう吹き抜けの天井があった。周囲に人の気配が無いこともあり、大神は自分の溜息が反響する音を聞いた。
 だが、良く耳を済ませれば建物の奥の方では沢山の人の声や、慌しい音が聞こえた。
「では、大神さん。支配人室へ――」
「ハナビ! やっと帰って来たのね」
 少し甲高い声が聞こえた。見ればロビー正面のドアが開かれ、一人の少女が顔を出していた。
 背丈は大神の胸元程だろうか。士官学校に入る前にあった甥ぐらいの年頃と推察し、十歳前後だろうと大神は考えた。
 金色の髪は背中まで達し、前髪はピシリと綺麗に揃えられている。その金色の前髪の隙間からは、クリクリとした大きな青い瞳があった。白く整った顔立ちの中で、否が応にも目立つ。
 青と白の縦じまのドレスを纏い、スカートの裾は膝上で揺れていた。
「ラチェット、こちらは――」
「大神少尉よね。もちろん聞いてるわよ」
 ラチェットと呼ばれる少女はトトトトと大神に近づき、大神の事をジロジロと興味深そうに、どこか大人びた表情で大神を観察する。
 そして今度は年相応の子供の様な笑顔になり、大神に向かい手を差し出しながら自己紹介をしはじめた。
「私はラチェット・アルタイル。これからよろしくね、大神少尉」
 ラチェットの一瞬の変わり身にキョトンとするものの、どうやらラチェットは握手を求めている様だと気付く。
 大神はトランクを床に置いて脱帽し、腰を落としながらラチェットに握手を返した。
「えーと、俺は大神一郎だ。よろしくね、ラチェットちゃん」
 少女の小さな手を軽く握る。途端、子供とは思えない力で握り返され、一気に引っ張られた。そのままラチェットはもう片方の手で大神の襟元を掴んでいた。
「いぃっ!」
 思わず大神は肩膝を付いてしまう。
 その体勢のまま、ラチェットが鼻先がぶつかる程の距離で顔を近づけた。片手は相変わらず大神の襟元を掴んでいる。先程の年相応の表情は剥がれ落ち、どこか妖艶な瞳を輝かせながらラチェットは大神を間近で見つめる。
「ラ、ラチェット!」
 花火が悲鳴を上げた。
(な、なんなんだこの子。そ、それにしても)
 対して大神は赤面しながら固まる。ラチェットの顔をまじまじ見ると、どうにも子供と思えない美しさがあった。
 ラチェットは猫の様に目を細めつつ、笑みを浮かべ――
「――やっぱり持ってる。でも、所詮男ね」
 小さく呟いた。
 ラチェットはそのまま首筋に抱きつくように腕を絡めなおし、大神の耳元に口を寄せた。
「ごめんなさい。これはお返しね」
 そしてカプリと大神の耳を甘噛みする。
「なぁ!」
 大神は思わずラチェットを押し返そうとするが、その手は空を切った。とっくにラチェットは大神から離れ、体勢を崩し尻餅を付いた大神を楽しそうに見ている。
「ラチェット! 大神さんに何て事を!」
「ふふ、ハナビったら、こわーい」
 花火が顔を赤くしながら怒った。ラチェットはそんな花火をからかいながら、逃げるように扉の向こうへと消えていった。
「も、もう。大神さんすいませんでした」
 花火は申し訳無さそうにしながら、ペコリとお辞儀する。
「い、いや。アハハハ、自分こそ情け無い所をお見せしました」
 パンパンと制服を叩きながら大神は立ち上がる。
「あ、ハナビー!」
 また扉が開き、ラチェットが顔だけを出していた。
「本番前の最後の衣装合わせしたいって、みんな探してたわよー!」
「えっ? い、行けない。急がないと!」
 花火は慌て出し、急いで劇場の奥へ行こうとするも。
「あ、その、大神さん。え、え、と」
「いや、自分の事は気にしなくていいですよ。『支配人室』へ迎えばいいんですよね」
「そうです。こここを真っ直ぐ、突き当りを右に行けばすぐに着きます。その、すいません。お客様をご案内してるのに、こんな無作法を――」
「ははは。いいですからいって下さい。お急ぎなんでしょう」
 花火の言葉に、大神は無理やり言葉を重ねて話を打ち切った。花火は申し訳無さそうにしながら、ラチェットの消えた扉へ入っていく。
 大神はそんな花火を見送った後、荷物を持ち直し支配人室があるという方向へと歩き出す。
「こっち、だよな」
 ロビーの左側に延びた通路を進む。人気の無い所だと思ったのだが――。
「どいてください~」
「いいっ」
 ラチェットよりは年上だろうが、やはり幼い少女達数名がドタバタと走ってくる。どこか普段着に見えない質素すぎるボロの洋服を着ていた。やはり舞台衣装なのだろうか。
 大神は壁際に寄り、どうにか少女達をやり過ごすも――。
「どけどけーい!」
 今度は法被にハチマキを付けた男達の集団が走り抜けていく。脇には木材を抱えていた。
「……」
 更には無言で走る、全身黒尽くめで顔まで黒い布で覆っている黒子もいた。
 決して狭くない通路だが、人の波に押されて、大神は通りの横にあったスペースへ押し出されてしまう。
「……忙しい所なんだな」
 慌しさに思わず額を拭ってしまう。
 大神が思い出したのは、海上演習で軍艦に乗り、時化に襲われた時だった。あの時も艦内は異常なまでの喧騒に覆われていた。
 ふと大神は自分の立っている場所を見回した。先程の通路に面しており。扉や壁が無いまま、簡単な観葉植物で区切られている空間だった。
「食堂、かな」
 丸テーブルに真っ白い布がかけられ、整然と広い空間に並べられていた。壁の一面には大きな西洋画や装飾品が置かれている。広間の窓側は銀座の大通りに面しており、高く作られたガラス窓が日の光を室内に多く取り込んでいた。
 広間の奥からは洋食の匂いだろうか、あまり嗅ぎ慣れない良い香りがした。やはりそこからも怒声や叱咤が聞こえる事から、奥は厨房で何かしらの料理を準備しているのがうかがい知れた。
「ちょっと、そこの貴方」
 人気の少ない食堂で声がした。
 後ろ姿しか見えないが、どうやら一人の女性が食堂でお茶を飲んでいたらしい。彼女の前には紅茶が入ってるだろうティーセットがあった。
「替えのスプーンを持ってきてくださるかしら」
 女性は返事を待たずに用を言いつける。大神はキョロキョロと周囲を見渡すが、食堂には自分と女性以外に人影は無い。
「あの、自分がですか?」
「貴方以外誰がいるのですか」
 女性が振り向きながら答えた。女性の肩まで伸びた絹糸の様な髪が揺れる。
「……あら? 軍人さん?」
 女性は少し目を見開くものの、きりりと凛々しい瞳を細めながら大神を見た。
「失礼致しましたわ。てっきり給仕かと勘違いしてました」
 と言いながらも女性は首すら動かさず、目だけで謝辞をする。だが、どこかそれは様になっており、無礼に感じなかった。
「いえ、自分は気にしていません」
 大神はそう言いながら女性を見る。
 振り向いて気付いたのだが、女性は扇情的な格好をしていた。紫陽花色の着物を大胆に着崩して、肩を露にしている。足元はブーツだろうか。昨今流行の和洋折衷を彼女なりに工夫している様だ。
 そしてそんな格好をしながら気品に溢れているのは、彼女の顔立ちにもよるのだろう。切れ長の目に艶やかな唇。唇を見て、一瞬大神は先程のラチェットの事を思いだす。
(今日は綺麗な女性にあってばかりだな)
 なにせ何故か自分は劇場に来ているのだからしょうがない。そんな事を思いつつ女性を見れば、彼女も同じように大神を見ていた。
「ふーん、そうですの。軍人さん、あなたが――」
「は?」
 女性は一人納得したと言う様に頷く。
「あ、あの。ご婦人にお聞きしたいのですが、この劇場は今忙しいのですか?」
「忙しい? えぇ、そうですわね。開演前ですから」
「やっぱりそうなんですか」
 どうやら今は講演の直前らしく、それを考えればあの喧騒も理解できた。
「ところで軍人さん。もちろんわたくしの事はご存知ですわよね?」
「――え?」
 女性が自信満々といった風に、大神に詰問してくる。
「あの、申し訳ない。自分は貴方の事を知りません」
 プチリ、と何かが切れた音がした。女性の顔は笑みのまま、どこか恐ろしい空気を漂わせ始めた。
「そう、知らないのですわね。それでまぁ、堂々とこの大帝国劇場に出入り出来る事!」
 轟ッ! と風が女性を中心に吹き荒れた様に大神は感じられた。だが、周囲のテーブルクロスも、装飾品も一切揺れていない。
 ただ大神の肌に、何かが叩きつけられているのだ。
 大神の本能が警鐘を鳴らし、恐怖が競りあがってくる。
「覚えておきなさい軍人さん。わたくしの名前は神崎すみれ、この帝国歌劇団のトップスタァですわ! おーほっほっほっ!」
 高笑いをしながら手の甲で口を隠し、神崎すみれは大神に高々と言い放つ。
 これが大神にとって長い付き合いとなる、神崎すみれとの出会いだった。

     ◆

 その後、すみれは呼びに来た女性に連れられ、食堂から出て行った。
 残ったのは呆然とする大神だけだった。
「さっきのは一体何だったんだ」
 威圧感、とでも言うのだろうか。すみれはどうやら舞台女優らしい。自信満々の彼女のもの言いと『トップスタァ』という言葉からも、彼女はかなりの演技力を持っている様だ。
(演技とか、そういう類のものなのだろうか)
 肌を圧迫した彼女の放つ気迫の様なものは、尋常では無かった。大神は一瞬それを思い出し、身震いした。
「いかん、いかん。それよりも早く支配人室に向かわねば」
 大神は人込みを避けながらも劇場の奥へ奥へと進み、目当ての部屋を見つける。
 支配人室と書かれた表札が下がったドア。大神は自分の軍服を調え、息を深く吐いた後、ドアをノックした。
「入りたまえ」
 部屋の中から聞こえたのはしわがれた声だった。
「失礼します!」
 大神は入室し、丁寧にドアを閉めた。
 そして部屋の中央にまで進み出た。部屋の中はさほど広くなく、七・八畳という程度だった。簡素な洋風作りで、中央には大きめの書斎机がデンと置かれている。
 その机には、皮製の椅子に深く腰を下ろした男性がいた。
 顔には幾重も皺が刻まれ、髪も全部が白髪であり、その髪を撫で付けるように後ろに流している。齢は八十を越えている様に大神には見えた。それでもその双眸は黒く、ギラギラとした強さが見れた。
 服は洋装。和服が似合いそうな老爺のせいか、どこかちくはぐとして浮世離れした風体だった。
「帝国海軍、大神一郎少尉であります!」
「よくここまで来てくれたね、大神少尉。歓迎しよう」
「はっ! 恐縮であります!」
「うむ」
 老人は好々爺といった感じに表情を崩し、笑顔を見せた。大神はその老人の表情に、栃木にいる祖父を思い出す。
「さて、自己紹介がまだだったね。わしの名は天海。この帝国歌劇団の支配人をしておる」
「天海、支配人でありますか」
(天海……どこかで聞いたことあるような)
 大神の内心を透かす様に、天海は笑みを浮かべた。
「まぁおかしな名前だろうな。僧籍じゃよ。昔は坊さんだったものでな。本当の名前はとうに忘れてしもうた」
 ふぉっふぉっふぉっ、と笑う天海。
「さてと、何処から話したもんかのう。大神少尉、いや大神と呼ばせてもらうかの。ここに来るまでに色々疑問もあろうに」
「――」
 大神は黙って天海の言葉を聞いた。
「知っての通り、お主の任務は『帝都の防衛』。そしてそれは降魔や魑魅魍魎の類との戦いでもある。だがのう、奴らは人の心にも巣食い、容易く蝕むのじゃ。だからこそのこの大帝国劇場であり、帝国歌劇団というわけじゃ。わかるかの?」
「それは……つまりこの施設が帝都防衛の隠れ蓑、という事でありますか?」
 大神の答えに、天海はこくこくと頷いた。
「聡いのぉ。まぁ半分当りという所じゃ。詳しくは講演後、という事にしよう」
 天海はそこで一区切りをした後、表情を引き締めた。
「大神一郎少尉、貴君の帝国華撃団配属を受領する。貴君の活躍を期待する!」
「はっ! 了解しました!」
 大神は強い熱意を露にした。
「うむ、良い目だ。かつて見た歴戦の武士(もののふ)を思い出すかのようじゃな」
「武士(もののふ)、ですか?」
「ふぉっふぉっふぉっ。わしもかつてはお館様と共に戦場を歩いた経験があるものでな」
(親方? 坊さんに軍人、そして劇場の支配人。多才なお方なのだな。いや、だからこそ帝都防衛という重責を負っておられるのか)
 大神は得心する。
「さて、大神にはここで住み込みで働いてもらう、そして軍人という事も出来る限りは隠しておいてくれ。余り周囲に違和感を持たれたくないのでなぁ」
「了解いたしました!」
「それじゃよ、それ。そういう態度でバレてしまうのでな、もう少し柔らかく対応してくれ」
「りょ、……わかりました」
「うむ」
 また天海はニコリと笑う。
 天海は机から綺麗に折りたたまれた服を出し、大神に手渡した。
「ほれ、仕事着じゃ」
「は、はい」
 さらに天海は机の上に乗った電話機をいじり出した。
「あー、藤井君かのぉ。うむ、例の大神を部屋まで案内してほしいんじゃ。その後仕事についての説明もたのめるかのぉ、うむ」
 何事かを話した後、天海はガチャリと受話器を落とした。
 そしてすぐに支配人室がノックされ、一人の女性が入ってきた。
「失礼します、支配人」
 入ってきたのは、これまた女性だった。先程のすみれとは違い、紫色の着物を上品に着こなしている、落ち着いた女性だった。
「おぉ、藤井君。ご苦労だったね、こちらが例の大神だ」
「お、大神一郎しょ……じゃなかった。大神一郎です、よろしく」
 大神の慣れない物言いに何となく察した女性は、クスクスと笑いながら答えた。
「私は藤井かすみと言います。よろしくお願いしますね、大神さん」
「う……」
 自分より年上だろう女性のせいか、大神はどこか気恥ずかしさを感じた。
「それでは大神さんをご案内しますね、支配人」
「うむ、よろしくたのむ」
 大神はかすみに促され、部屋を退室していく。
 支配人室で一人になりながら、天海は窓の外を見た。
「見込み違いにならねば良いのぉ」
 口元を引き締め、老爺は視線を遠くに投げた。
「これからが本番じゃ。早まるなよ、米田」
 呟きは虚空。誰にも聞かれぬまま消えた。

 第一話 了。

コメント

ニコニコでありますwww
ローティーンな軽やかに舞うラチェットとさり気無く居座っている天海に次々吹きますwwwwアイリスぅぅ~!!
文章からなおさんの世界観を感じられるのが新鮮。黒子のシーンがいいな~。
加山などの設定も素晴らしい。いいツボを押さえてくれています。

ありがとうございます!
黒子に反応してもらえるあたりありがたいですw
OVA見てると、なんかあいつらの印象が嫌に残るw
一応この中でも黒子に関する設定は作ってあったりするんですが、どうなるやら……。

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